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ねおゆうきの日々のメモ

場面緘黙(ばめんかんもく)症と生きる

一昨日、久しぶりに会った友達と、先日のアカデミー賞授賞式での受賞者たちのスピーチの話題になりました。今年は社会問題にスポットをあてたスピーチが多くて、中でもパトリシア・アークエットが男女間の賃金格差の是正を訴えたスピーチがえらく話題になったけれど、あのような場に立つ女優さんに、あのような場で賃金格差の話をされても、ハッキリ言って違和感だらけだったよね、なんて言って2人で笑いました。

そんな、『イミテーション・ゲーム』で最優秀脚色賞を受賞したグラハム・ムーアのスピーチは、かなり響いた。16才のときに自殺未遂をしたことを告白し、そんな自分にも今は居場所がある、と語った彼のスピーチは、各種メディアで最も感動的だったと評価され、日本語にも訳されているのを目にした方も多いと思います。

"Stay weird" "Stay different"(変なままでいい。皆と違っていていい。)

この言葉を聞いて考えたのは我が子のこと。彼もいつかは自分の居場所を見つけて、自分の好きなことで力を発揮できる、そんな日が来るといいんだけど。

それにしても、なぜ我が子が「皆と違うこと」に、親はこんなにも不安を感じてしまうんだろう。

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うちには場面緘黙(ばめんかんもく)症の息子がいます。

場面緘黙症って何?と思われることでしょう。家庭など慣れた環境では話すことができるのに、特定の場面や状況では、不安や恐怖心から全く話すことができなくなる症状のことで情緒障害のひとつ。幼児期に発症することが多いのだけど、単に引っ込み思案で大人しい子と思われて、気がつかれないことが多い。大きくなれば変わる、と放っておくと成人になっても改善せず、社会生活に支障をきたすようになるそうです。

しゃべれない。聞かれても応えられない。注目されたり、話すことを強いられると硬直してしまう。輪の中に入れない・居られない。友達がつくれない。とにかく変わった子。

息子の場面緘黙症に気づいたのは、ニューヨークの学校に転校して2年目、4年生のときでした。担任の先生に「しゃべれないのは英語だけの問題じゃないと思う。検査してみては?」と言われたのがきっかけでした。実は日本にいるときから言葉の遅れや情緒不安定なことには気づいていたのですが、ゆっくりと成長してるだけ、個性のうち、と発達障害の可能性を認められないでいた私。検査の結果、「Selective Mutism(場面緘黙症)です。言葉の遅い子、バイリンガルの環境にある子供に発症することが多いのですが、彼の場合は両方の要因がありますからね。早く対処しないと大きくなればなるほど改善が難しくなります。」と言われたときは、愕然としました。

それから週1回、セラピーに通う日々が始まりました。様々な恐怖症を克服するのと同じで、苦手な状況に少しずつ晒されることで慣れていく訓練。不慣れな人とは目を合わすことも挨拶することもできなかった息子が、トイレの場所を聞いたり、レストランでオーダーできるようになるまで2年は掛かったでしょうか。14才の今なお課題は残っているので、隔週で通っています。

友達作りは苦手だけど、友達はほしい息子。セラピーの他、時間があれば、クラスメートの男の子たちを家に呼びました。親がセットアップしてやることで仲良く遊べる子もでき、ホッとするのですが、それも束の間、一緒に遊んでも退屈と思われるのか、やがて去られてしまう。定着しない。

それで息子と同じくらい私も傷つきます。でも、度重なるリジェクションにも親がヘコんでいてはいけないと思い直し、また誘い。しかしある時、ある男の子に「今度うちに遊びにおいで」と声を掛けたら、"Well, I'll think about it." (うーん、考えとくよ)との答え。この言葉にいよいよ私も打ちのめされ、それを最後に誰も誘うことができなくなってしまいました。

でも、幸いイジメに合うこともなく、登校拒否になることもなく、中学校に上がってからは部活にも参加するようになったのがせめてもの救い。最近になってようやく、よく遊びに誘ってくれる友達ができ、今日はそのお友達の誕生日のお祝いで、アイスホッケーのゲームを見て来た息子でした。

こんな変わりものの息子を受け入れてくれた友達に感謝。どうかこの友情が続きますように。祈るような気持ちで見守っている母です。

"Stay weird" "Stay different"(変なままでいい。皆と違っていていい。)

この言葉を信じる勇気を持とう。ありのままの我が子を愛し、そっと見守り続けよう。それが母親としての私の役割だと言い聞かせながら。

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