紅葉の下での語らい。
自宅近くのもみじの木の下で写真を撮っていたら、「随分大きな重そうなカメラね。」と話かけて来た女性がいた。犬の散歩をさせていると、よく出会うおばさんだ。
「紅葉を撮ってるんですよ。もうピークを過ぎちゃった感じですね。」
「いいわね、私も撮りたいわ。」
一人暮らしなのだろう、いつもデイケアの女性が側にいて、軽い挨拶を交わすくらいで話をしたことはなかったのだけど、こんな会話をきっかけに、初めてしばらく立ち話をした。
シルビアさん。このコミュニティにもう50年住んでいるという。
「私、日本に行ったことがあるわよ。ずっと前にね。たしか1978年、そう1978年だったわ。」
そして、孫息子さんが東京で弁護士をしているそうだ。
「毎日遅くまで働いてるらしいわ。」
ジャパン・コネクションで話が弾んだ。
身長154cmの私より小さくて、足元は頼りな気だけど、口調はとてもしっかりして、澄んだ目はどこか知的だ。
どんな人生をシルビアが歩んできたのか私には知る由もないけれど、一日、一日を積み重ね、子供や孫たちを立派に巣立たせるという役目を果たして、そして今尚、彼らのことを案じながら、彼らがいつでも戻れる場所をひとり静かに守っているんだろうな。
顔いっぱい刻まれたシワが、とても美しく、愛おしく思えた。
東京のお孫さんは、時々シルビアことを思い出しているかしら?
「シルビア、写真撮らせてもらってもいいですか?」
そう聞くと、彼女はためらうことなく、少しはにかんだ素敵な笑顔を向けてくれた。
写真を自宅の郵便受けに入れておくことを約束して別れる。
1枚余分に渡して、その1枚は東京のお孫さんに送ってもらおう。